テンソル積とは何か?:独立した系を合成し「複合系」を記述する数学的言語
目次
前提知識
この記事をスムーズに理解するために、以下の知識があることが望ましいです。
- 線形代数: ベクトル空間、基底、次元、行列演算、線形写像の基本的な概念を理解していること。
- 量子力学のケット表記: ブラ-ケット記法に慣れ親しんでいること(必須ではありませんが、応用例の理解が深まります)。
要点まとめ
この記事では、複数の独立したベクトル空間を組み合わせて、より大きな「複合空間」を構成するための数学的な操作であるテンソル積について解説します。具体的な計算方法から、その抽象的な意味、そして量子力学における角運動量の合成という重要な応用例までを掘り下げます。
- 問題の核心: 独立した系の状態をどのように数学的に合成し、複合系全体の「状態空間」を記述するか?
- 用いる数学的道具: ベクトル空間のテンソル積とその普遍性
- 最終的な結論: テンソル積は、個々の系の基底の「すべての可能な組み合わせ」を新しい基底とする、巨大なベクトル空間を構築する操作である。
1. はじめに
物理学や情報科学の多くの場面で、複数の独立したシステムを一つの大きな「複合系」として扱いたいという要求が現れます。例えば、量子力学において2つの電子の状態を記述する場合、それぞれの電子が取りうる状態を単純に並べるだけでは、2つの電子が全体としてどのような状態にあるのかを記述しきれません。
このようなとき、それぞれの系の状態空間を「掛け合わせ」、複合系全体の状態空間を構築する数学的な道具が**テンソル積(Tensor Product)**です。テンソル積は、一見すると抽象的で難解に感じられるかもしれませんが、その本質は「独立した特徴や可能性を組み合わせる」という極めて自然な考え方にあります。
この記事では、まずテンソル積の直感的なイメージを掴み、その厳密な数学的定義である普遍性に触れます。その上で、具体的な計算ルール(クロネッカー積)を学び、最後に物理学における応用例を見ることで、抽象的な概念がどのように物理現象の記述に貢献するかを明らかにします。
2. 導入と直感的理解
具体的な数式に入る前に、なぜテンソル積が必要とされ、それがどのようなイメージを持つのかを探ります。
なぜテンソル積が必要か?
2つの独立した系、系Aと系Bを考えます。系Aが取りうる状態の集合がベクトル空間 $V$ で記述され、系Bの状態の集合がベクトル空間 $W$ で記述されるとします。このとき、AとBを合わせた複合系全体の状態を記述する空間は、どのように構成されるべきでしょうか。
答えは、$V$ と $W$ のテンソル積空間 $V \otimes W$ となります。これは、系Aが特定のある状態 $\vec{v} \in V$ にあり、かつ、系Bが特定のある状態 $\vec{w} \in W$ にある、という複合状態 $\vec{v} \otimes \vec{w}$ を元として含みます。そして重要なのは、このような単純な積の形で書ける状態だけでなく、それらの線形結合(重ね合わせ) もまた、複合系が取りうる状態であると考える点です。
身近なアナロジー:「サイズと色」の組み合わせ
もっと単純なアナロジーで考えてみましょう。ある商品に「サイズ」という属性(S, M, Lの3通り)と、「色」という属性(赤, 青の2通り)が独立に存在するとします。
- 「サイズ」の状態空間 $V_{size}$ の基底は {S, M, L} で、次元は3です。
- 「色」の状態空間 $V_{color}$ の基底は {赤, 青} で、次元は2です。
この商品の「バリエーション」全体を考えることは、複合系を考えることに対応します。可能な組み合わせは、(S, 赤), (S, 青), (M, 赤), (M, 青), (L, 赤), (L, 青) の $3 \times 2 = 6$ 通りです。この「組み合わせのすべて」が張る空間が、テンソル積空間のイメージです。新しい空間の次元が、元の空間の次元の積になっている点に注目してください。
このアナロジーは、テンソル積が元の空間の基底のすべての組み合わせを、新しい空間の基底とするという本質を捉えるのに役立ちます。ただし、量子力学で極めて重要になる、これらの組み合わせの「重ね合わせ状態」(例えば「Sサイズで赤」の状態と「Mサイズで青」の状態が50%ずつの確率で存在するなど)については、後のセクションで詳しく見ていきます。
3. 解法のロードマップ
テンソル積の数学的構造を理解するために、以下のステップで思考を進めます。
- Step 1: テンソル積の厳密な定義(普遍性) テンソル積空間とその写像が満たすべき数学的な性質(双線形性と普遍性)を定義する。
- Step 2: 具体的な構成と計算方法(クロネッカー積) 普遍性を満たす空間を具体的に構成する方法として、基底を用いたクロネッカー積を導入し、その計算ルールを学ぶ。
- Step 3: テンソル積「空間」の全体像 単純な積だけでなく、その線形結合が構成するテンソル積空間の全体像と、その基底や次元について理解する。
4. 理論展開と計算
上記のロードマップに従って、数学的な定義から見ていきましょう。
Step 1: テンソル積の厳密な定義と普遍性
クロネッカー積のような具体的な計算は、実はテンソル積の一つの「表現」に過ぎません。より本質的な定義は、テンソル積が満たすべき性質によって、より抽象的に与えられます。
2つのベクトル空間 $V, W$ が与えられたとき、そのテンソル積(Tensor Product)とは、あるベクトル空間 $V \otimes W$ と、双線形写像 $\otimes: V \times W \to V \otimes W$ の組であって、以下の普遍性(Universal Property) を満たすもののことを言います。
テンソル積の普遍性 任意のベクトル空間 $Z$ と、任意の双線形写像 $f: V \times W \to Z$ に対して、 $$f = \tilde{f} \circ \otimes$$ を満たす線形写像 $\tilde{f}: V \otimes W \to Z$ が唯一つ存在する。
この定義、特に数式の部分は、初見では非常に難解に感じられるかもしれません。記号を一つずつ分解して見ていきましょう。
数式の解説:$f = \tilde{f} \circ \otimes$
この等式は「写像として等しい」ことを意味しており、登場する記号はそれぞれ以下の役割を持っています。
$\circ$(circ): 写像の合成 これは「写像の合成(composition)」を表します。二つの写像(関数)をつなげ、$(g \circ h)(x) = g(h(x))$のように、一方の出力が次の一方の入力となる新しい写像を作る操作です。$\tilde{f}$(f-tilde): $f$ に対応する新しい線形写像$\tilde{f}$(エフ・チルダ) は、元の双線形写像$f$から作られる、新しい線形写像です。元の$f$はペア$(\vec{v}, \vec{w})$を入力としますが、$\tilde{f}$はテンソル積$\vec{v} \otimes \vec{w}$などを入力とします。$\otimes$: ペアをテンソル積に変換する「写像」 ここでは$\otimes$は、ベクトルのペア$(\vec{v}, \vec{w}) \in V \times W$を入力とし、テンソル積空間の元$\vec{v} \otimes \vec{w} \in V \otimes W$を出力する特別な双線形写像$\otimes: V \times W \to V \otimes W$そのものと見なされています。つまり、普段私たちが演算子として書いている$\vec{v} \otimes \vec{w}$という表現は、この写像$\otimes$を用いて$\otimes((\vec{v}, \vec{w}))$と書いたものに対応します。
これらの意味をまとめると、この数式は二つの異なる「経路」が最終的に同じ結果をもたらすことを示しています。
任意の入力 $(\vec{v}, \vec{w}) \in V \times W$ に対して、
- 直接経路 (
$f$): 写像$f$によって$Z$へ直接到達する。結果は$f(\vec{v}, \vec{w})$。 - 経由経路 (
$\tilde{f} \circ \otimes$): まず写像$\otimes$によってテンソル積空間$V \otimes W$へ行き、そこから写像$\tilde{f}$によって$Z$へ到達する。結果は$\tilde{f}(\vec{v} \otimes \vec{w})$。
$f = \tilde{f} \circ \otimes$ とは、これら二つの経路の結果が常に等しい、すなわち $f(\vec{v}, \vec{w}) = \tilde{f}(\vec{v} \otimes \vec{w})$ が成り立つということです。
普遍性の本質
普遍性の核心は、「どんな双線形写像 $f$ を持ってきても、この等式を成り立たせるような都合の良い『経由経路』を担う線形写像 $\tilde{f}$ が、必ずただ一つだけ存在する」 という点にあります。
言い換えれば、$V \otimes W$ は、$V \times W$ から始まるあらゆる双線形性を、「線形性」という遥かに扱いやすい構造に変換するための、いわば理想的な「変換ハブ」 としての役割を果たす空間なのです。この強力な性質こそが、テンソル積を数学的に定義づけるものとなります。
Step 2: 具体的な構成と計算方法(クロネッカー積)
Step 1で解説した普遍性によって、テンソル積空間の存在とその性質は保証されました。しかし、実際に物理の問題などで計算を遂行するためには、この抽象的な空間を具体的な数値やベクトルで表現する「構成方法」が必要です。
$V$ と $W$ が有限次元のベクトル空間である場合、このテンソル積空間を具体的に構成し、計算可能にするための強力な道具が**クロネッカー積(Kronecker Product)**です。
クロネッカー積の定義
まず、テンソル積の文脈から一旦離れて、クロネッカー積がどのような行列演算であるかを定義しましょう。
クロネッカー積 $\otimes$ は、任意のサイズの2つの行列 $A$ と $B$ に対して定義され、結果としてより大きなサイズのブロック行列を生成する操作です。
$m \times n$ 行列 $A$ と $p \times q$ 行列 $B$ のクロネッカー積 $A \otimes B$ は、以下のように定義される $mp \times nq$ の行列です。
$$ A \otimes B = \begin{pmatrix} a_{11}B & a_{12}B & \cdots & a_{1n}B \\ a_{21}B & a_{22}B & \cdots & a_{2n}B \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1}B & a_{m2}B & \cdots & a_{mn}B \end{pmatrix} $$
つまり、行列 $A$ の各成分 $a_{ij}$ をスカラーとして扱い、その後ろに行列 $B$ 全体を掛け合わせることで、巨大な行列を構成します。この単純明快な行列演算が、普遍性を満たすテンソル積の性質を具体的に実現するものとなっています。
ベクトルと行列への適用
この定義を、ベクトル(行列の一種と見なせる)と行列(線形変換)に適用してみましょう。
行列のクロネッカー積
複合系における線形変換(物理学における演算子)は、行列のクロネッカー積によって表現されます。これは上記の定義そのものです。 $$ A \otimes B = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \end{pmatrix} \otimes B = \begin{pmatrix} a_{11}B & a_{12}B & \cdots & a_{1n}B \\ a_{21}B & a_{22}B & \cdots & a_{2n}B \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1}B & a_{m2}B & \cdots & a_{mn}B \end{pmatrix} $$
ベクトルのクロネッカー積
ベクトルは、成分が1列に並んだ行列(列ベクトル)と見なすことができます。例えば、$m$ 次元ベクトル $\vec{v}$ は $m \times 1$ 行列です。この見方でクロネッカー積の定義を適用すると、ベクトルのテンソル積が自然に導かれます。
$m$ 次元ベクトル $\vec{v}$ と $n$ 次元ベクトル $\vec{w}$ のテンソル積 $\vec{v} \otimes \vec{w}$ は、$mn$ 次元のベクトル($mn \times 1$ の行列)となり、以下のように計算されます。
$$
\vec{v} \otimes \vec{w} =
\begin{pmatrix} v_1 \\ \vdots \\ v_m \end{pmatrix} \otimes \vec{w}
=
\begin{pmatrix} v_1 \vec{w} \\ \vdots \\ v_m \vec{w} \end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
v_1 w_1 \\ v_1 w_2 \\ \vdots \\ v_1 w_n \\ v_2 w_1 \\ \vdots \\ v_m w_n
\end{pmatrix}
$$
このように、クロネッカー積という明確な行列演算を用いることで、抽象的なテンソル積を具体的な数値ベクトルや行列として扱い、計算することが可能になるのです。
Step 3: テンソル積「空間」の全体像
ここが最も重要な概念です。
空間 $V$ の基底を $\{\vec{e}_1, \dots, \vec{e}_m\}$、空間 $W$ の基底を $\{\vec{f}_1, \dots, \vec{f}_n\}$ とします。このとき、テンソル積空間 $V \otimes W$ の基底 は、これらの基底のすべての組み合わせ
$$ \{ \vec{e}_i \otimes \vec{f}_j \}_{i=1,\dots,m; \ j=1,\dots,n} $$
によって与えられます。その総数は $m \times n$ 個あり、これが次元則の根拠です。
$V \otimes W$ の任意の元(ベクトル) $\vec{\Psi}$ は、これらの新しい基底の線形結合として一意に表現されます。
$$
\vec{\Psi} = \sum_{i=1}^{m} \sum_{j=1}^{n} c_{ij} (\vec{e}_i \otimes \vec{f}_j)
$$
ここで、$c_{ij}$ は複素数の係数です。
重要なのは、すべての $\vec{\Psi}$ が、ある $\vec{v} \in V$ と $\vec{w} \in W$ を用いて $\vec{\Psi} = \vec{v} \otimes \vec{w}$ という単純な積の形で書けるとは限らないということです。このような単純な積で書けない状態は、量子力学においてエンタングルした状態(量子もつれ状態) と呼ばれ、極めて重要な役割を果たします。
基本的な性質
テンソル積の定義(普遍性)と具体的な構成(クロネッカー積)から、以下の性質が導かれます。これらの性質が、具体的なベクトル計算で実際にどのように現れるかを確認してみましょう。
双線形性(Bilinearity):
スカラー倍と和について、分配法則のように振る舞います。これは普遍性の定義そのものに要請されていました。 $$ \begin{aligned} (\vec{v}_1 + \vec{v}_2) \otimes \vec{w} &= \vec{v}_1 \otimes \vec{w} + \vec{v}_2 \otimes \vec{w} \\ \vec{v} \otimes (\vec{w}_1 + \vec{w}_2) &= \vec{v} \otimes \vec{w}_1 + \vec{v} \otimes \vec{w}_2 \\ (c\vec{v}) \otimes \vec{w} = \vec{v} \otimes (c\vec{w}) &= c(\vec{v} \otimes \vec{w}) \quad (c \in \mathbb{C}) \end{aligned} $$
非可換性(Non-commutativity):
一般に、積の順序を交換することはできません。 $$ \vec{v} \otimes \vec{w} \neq \vec{w} \otimes \vec{v} $$
次元の拡大則:
空間 $V$ の次元が $m$、空間 $W$ の次元が $n$ のとき、テンソル積空間 $V \otimes W$ の次元は $m \times n$ となります。 $$ \dim(V \otimes W) = \dim(V) \times \dim(W) $$
具体例による確認
双線形性(Bilinearity):
2次元のベクトル $\vec{u} = \begin{pmatrix} u_1 \\\ u_2 \end{pmatrix}$, $\vec{v} = \begin{pmatrix} v_1 \\\ v_2 \end{pmatrix}$, $\vec{w} = \begin{pmatrix} w_1 \\\ w_2 \end{pmatrix}$ を用いて、最初の等式 $(\vec{u} + \vec{v}) \otimes \vec{w} = \vec{u} \otimes \vec{w} + \vec{v} \otimes \vec{w}$ を確かめます。
まず左辺を計算します。 $$ (\vec{u} + \vec{v}) \otimes \vec{w} = \begin{pmatrix} u_1 + v_1 \\ u_2 + v_2 \end{pmatrix} \otimes \begin{pmatrix} w_1 \\ w_2 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} (u_1 + v_1)w_1 \\ (u_1 + v_1)w_2 \\ (u_2 + v_2)w_1 \\ (u_2 + v_2)w_2 \end{pmatrix} $$ 次に右辺を計算します。 $$ \begin{aligned} \vec{u} \otimes \vec{w} + \vec{v} \otimes \vec{w} &= \begin{pmatrix} u_1 w_1 \\ u_1 w_2 \\ u_2 w_1 \\ u_2 w_2 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} v_1 w_1 \\ v_1 w_2 \\ v_2 w_1 \\ v_2 w_2 \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} u_1 w_1 + v_1 w_1 \\ u_1 w_2 + v_1 w_2 \\ u_2 w_1 + v_2 w_1 \\ u_2 w_2 + v_2 w_2 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} (u_1 + v_1)w_1 \\ (u_1 + v_1)w_2 \\ (u_2 + v_2)w_1 \\ (u_2 + v_2)w_2 \end{pmatrix} \end{aligned} $$ 両辺の結果が一致することが確認できました。
非可換性(Non-commutativity):
2次元ベクトル $\vec{v} = \begin{pmatrix} v_1 \\\ v_2 \end{pmatrix}$ と $\vec{w} = \begin{pmatrix} w_1 \\\ w_2 \end{pmatrix}$ を用いて、両辺を具体的に計算して比較します。
$$
\vec{v} \otimes \vec{w} = \begin{pmatrix} v_1 \vec{w} \\ v_2 \vec{w} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} v_1 w_1 \\ v_1 w_2 \\ v_2 w_1 \\ v_2 w_2 \end{pmatrix}
$$
一方で、順序を入れ替えると、
$$
\vec{w} \otimes \vec{v} = \begin{pmatrix} w_1 \vec{v} \\ w_2 \vec{v} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} w_1 v_1 \\ w_1 v_2 \\ w_2 v_1 \\ w_2 v_2 \end{pmatrix}
$$
両者を比較すると、例えば2番目の成分は $v_1 w_2$ と $w_1 v_2$ であり、一般にこれらは等しくありません。したがって、ベクトルの順序を交換すると結果は異なることがわかります。
次元の拡大則:
上記の例で用いたベクトル $\vec{v}$ と $\vec{w}$ は、どちらも2次元空間のベクトルです。すなわち、$\dim(V)=2$, $\dim(W)=2$ です。
これらのテンソル積 $\vec{v} \otimes \vec{w}$ は、計算結果からわかるように4つの成分を持つベクトルであり、4次元空間の元となります。
したがって、$\dim(V \otimes W) = 4$ となり、
$4 = 2 \times 2$
という次元の拡大則が満たされていることが確認できます。
普遍性:
普遍性の主張は「任意の双線形写像は、テンソル積空間を経由する唯一の線形写像に置き換えられる」というものでした。この抽象的な概念が、実際の計算でどのように働くのかを簡単な例で体験してみます。
空間と基底の設定: 話の土台として、2つの2次元実数ベクトル空間
$V = \mathbb{R}^2$,$W = \mathbb{R}^2$と、写像の行き先となる空間$Z = \mathbb{R}$(実数全体)を用意します。$V$のベクトルを表現するために、その標準基底を$\vec{e}_1, \vec{e}_2$と定めます。これらは最も基本的なベクトルで、具体的には$\vec{e}_1 = \begin{pmatrix} 1 \\\ 0 \end{pmatrix}$と$\vec{e}_2 = \begin{pmatrix} 0 \\\ 1 \end{pmatrix}$です。任意のベクトル$\vec{v} = \begin{pmatrix} v_1 \\\ v_2 \end{pmatrix}$は、$\vec{v} = v_1 \vec{e}_1 + v_2 \vec{e}_2$と書けます。- 同様に、
$W$の標準基底を$\vec{g}_1, \vec{g}_2$と定めます。$V$の基底と区別するため、ここでは$g$という文字を使います。具体的には$\vec{g}_1 = \begin{pmatrix} 1 \\\ 0 \end{pmatrix}$と$\vec{g}_2 = \begin{pmatrix} 0 \\\ 1 \end{pmatrix}$です。
双線形写像
$f$の定義:$V \times W$から$Z$への双線形写像を一つ考えます。$f$は2つのベクトル$\vec{v} \in V$,$\vec{w} \in W$を受け取り、1つの実数を返す写像で、今回は例としてそのルールを$f(\vec{v}, \vec{w}) = v_1 w_1 + v_2 w_2$と定めます。これはベクトルの内積と同じ計算です。この写像$f$は$\vec{v}$と$\vec{w}$のそれぞれに対して線形性を持つ(つまり双線形である)ことを確認できます。線形写像
$\tilde{f}$の構成: 普遍性によれば、$f(\vec{v}, \vec{w}) = \tilde{f}(\vec{v} \otimes \vec{w})$を満たす線形写像$\tilde{f}: V \otimes W \to Z$が唯一存在するはずです。 線形写像を定義するには、その写像が基底ベクトルをどこへ移すかを決めれば十分です。$V \otimes W$の基底は、$V$と$W$の基底の組み合わせである$\{\vec{e}_1 \otimes \vec{g}_1, \vec{e}_1 \otimes \vec{g}_2, \vec{e}_2 \otimes \vec{g}_1, \vec{e}_2 \otimes \vec{g}_2\}$で与えられます。$\tilde{f}$がこれらの基底にどう作用するかは、$f(\vec{e}_i, \vec{g}_j) = \tilde{f}(\vec{e}_i \otimes \vec{g}_j)$という関係式を使って決定できます。 $$ \begin{aligned} f(\vec{e}_1, \vec{g}_1) = 1 \cdot 1 + 0 \cdot 0 = 1 \quad &\implies \quad \tilde{f}(\vec{e}_1 \otimes \vec{g}_1) = 1 \\ f(\vec{e}_1, \vec{g}_2) = 1 \cdot 0 + 0 \cdot 1 = 0 \quad &\implies \quad \tilde{f}(\vec{e}_1 \otimes \vec{g}_2) = 0 \\ f(\vec{e}_2, \vec{g}_1) = 0 \cdot 1 + 1 \cdot 0 = 0 \quad &\implies \quad \tilde{f}(\vec{e}_2 \otimes \vec{g}_1) = 0 \\ f(\vec{e}_2, \vec{g}_2) = 0 \cdot 0 + 1 \cdot 1 = 1 \quad &\implies \quad \tilde{f}(\vec{e}_2 \otimes \vec{g}_2) = 1 \end{aligned} $$ これで線形写像$\tilde{f}$が(基底に対する作用として)一意に定まりました。等式の検証: 本当に $f(\vec{v}, \vec{w}) = \tilde{f}(\vec{v} \otimes \vec{w})$ が成り立つか、任意のベクトル $\vec{v}$, $\vec{w}$ で確認します。 まず、$\vec{v} \otimes \vec{w}$ を、$V \otimes W$ の基底を使って展開します。双線形性を利用します。 $$ \begin{aligned} \vec{v} \otimes \vec{w} &= (v_1 \vec{e}_1 + v_2 \vec{e}_2) \otimes (w_1 \vec{g}_1 + w_2 \vec{g}_2) \\ &= (v_1 \vec{e}_1) \otimes (w_1 \vec{g}_1 + w_2 \vec{g}_2) + (v_2 \vec{e}_2) \otimes (w_1 \vec{g}_1 + w_2 \vec{g}_2) \\ &= v_1 w_1 (\vec{e}_1 \otimes \vec{g}_1) + v_1 w_2 (\vec{e}_1 \otimes \vec{g}_2) + v_2 w_1 (\vec{e}_2 \otimes \vec{g}_1) + v_2 w_2 (\vec{e}_2 \otimes \vec{g}_2) \end{aligned} $$ このベクトルに、先ほど定義した線形写像 $\tilde{f}$ を作用させます。$\tilde{f}$ は線形なので、それぞれの項に分配できます。 $$ \begin{aligned} \tilde{f}(\vec{v} \otimes \vec{w}) &= \tilde{f}(v_1 w_1 (\vec{e}_1 \otimes \vec{g}_1) + \dots + v_2 w_2 (\vec{e}_2 \otimes \vec{g}_2)) \\ &= v_1 w_1 \tilde{f}(\vec{e}_1 \otimes \vec{g}_1) + v_1 w_2 \tilde{f}(\vec{e}_1 \otimes \vec{g}_2) + v_2 w_1 \tilde{f}(\vec{e}_2 \otimes \vec{g}_1) + v_2 w_2 \tilde{f}(\vec{e}_2 \otimes \vec{g}_2) \\ &= v_1 w_1 (1) + v_1 w_2 (0) + v_2 w_1 (0) + v_2 w_2 (1) \\ &= v_1 w_1 + v_2 w_2 \end{aligned} $$ この結果は、最初に定義した $f(\vec{v}, \vec{w})$ の結果と完全に一致します。このように、テンソル積空間を「経由」させることで、元の双線形な関係を、より扱いやすい線形な関係として見事に表現できていることがわかります。
補足:なぜ空間は「ちょうど良い大きさ」でなければならないか 普遍性の定義における「唯一つ存在する」という条件は極めて重要です。これは、テンソル積空間 $V \otimes W$ が、元の双線形の世界が持つ情報を過不足なく線形の世界に翻訳することを示唆しています。もし、この空間が「狭すぎる」か「広すぎる」場合、普遍性は成立しなくなります。
空間が「狭すぎる」場合:線形写像が「存在」できなくなる
$V = W = \mathbb{R}^2$の場合、正しいテンソル積空間$V \otimes W$は4次元です。ここで、仮に3次元の「狭すぎる」空間$U$を対応させようとすると何が起こるか見てみましょう。4つの独立な基底の組み合わせ
$(\vec{e}\_1, \vec{g}\_1), (\vec{e}\_1, \vec{g}\_2), (\vec{e}\_2, \vec{g}\_1), (\vec{e}\_2, \vec{g}\_2)$を3次元空間$U$に写すと、必ずどれかが線形従属になります。つまり、本来は異なるはずの情報が、同じものとして潰れてしまうのです。 例えば、この$U$では$\vec{e}\_1 \otimes' \vec{g}\_2 = \vec{e}\_2 \otimes' \vec{g}\_1$という関係が成り立ってしまったとします。($\otimes'$はこの不完全な写像)ここで、
$f(\vec{v}, \vec{w}) = v_1 w_2 - v_2 w_1$という双線形写像を考えます。この$f$に対応する線形写像$\tilde{f}: U \to \mathbb{R}$が存在するか試してみましょう。$f(\vec{e}\_1, \vec{g}\_2) = 1 \cdot 1 - 0 \cdot 0 = 1$なので、$\tilde{f}(\vec{e}\_1 \otimes' \vec{g}\_2) = 1$でなければなりません。$f(\vec{e}\_2, \vec{g}\_1) = 0 \cdot 0 - 1 \cdot 1 = -1$なので、$\tilde{f}(\vec{e}\_2 \otimes' \vec{g}\_1) = -1$でなければなりません。
しかし、空間
$U$の中では$\vec{e}\_1 \otimes' \vec{g}\_2$と$\vec{e}\_2 \otimes' \vec{g}\_1$は全く同じベクトルでした。線形写像は、一つの入力に対して二つの異なる値($1$と$-1$)を返すことはできません。これは矛盾です。 したがって、この双線形写像$f$に対応する線形写像$\tilde{f}$は存在できません。空間が狭すぎて、元の世界の情報を保持しきれなかったのです。空間が「広すぎる」場合:線形写像の「一意性」が破綻する 次に、正しい4次元空間より大きい、例えば5次元の「広すぎる」空間
$U'$を考えます。 この$U'$の基底は、本来必要な4つの基底$\{\vec{e}\_1 \otimes' \vec{g}\_1, \dots, \vec{e}\_2 \otimes' \vec{g}\_2\}$に加えて、無関係な「余分な」基底$\vec{u}_{\text{extra}}$を持っています。ここで、
$f(\vec{v}, \vec{w}) = v_1 w_1 + v_2 w_2$(内積) に対応する線形写像$\tilde{f}: U' \to \mathbb{R}$を考えます。 普遍性の条件$f(\vec{e}\_i, \vec{g}\_j) = \tilde{f}(\vec{e}\_i \otimes' \vec{g}\_j)$から、本来の4つの基底がどこへ写るかは一意に決まります。 $$ \tilde{f}(\vec{e}_1 \otimes’ \vec{g}_1) = 1, \quad \tilde{f}(\vec{e}_1 \otimes’ \vec{g}_2) = 0, \quad \tilde{f}(\vec{e}_2 \otimes’ \vec{g}_1) = 0, \quad \tilde{f}(\vec{e}_2 \otimes’ \vec{g}_2) = 1 $$ しかし、「余分な」基底$\vec{u}_{\text{extra}}$の行き先$\tilde{f}(\vec{u}_{\text{extra}})$はどうでしょうか? 普遍性の条件式には$\vec{u}_{\text{extra}}$が一切登場しないため、この値は何も制約を受けません。$\tilde{f}_A(\vec{u}_{\text{extra}}) = 0$と定めた線形写像$\tilde{f}_A$$\tilde{f}_B(\vec{u}_{\text{extra}}) = 42$と定めた線形写像$\tilde{f}_B$
これら
$\tilde{f}_A$と$\tilde{f}_B$は明らかに異なる写像ですが、どちらも普遍性の条件式を完全に満たします。 これは、条件を満たす線形写像が唯一つに定まらないことを意味し、普遍性の「一意性」の要請に反します。
したがって、普遍性を満たすテンソル積空間は、双線形写像の世界と「ちょうど同じ情報量」を持つ、過不足のない唯一の空間として特徴づけられるのです。
5. 物理学への応用:角運動量の合成
テンソル積が物理学でどのように使われるか、具体例として2つの粒子の角運動量の合成を見てみましょう。
状況設定
それぞれが角運動量を持つ2つの粒子(例えば2つの電子のスピン)からなる複合系を考えます。
- 粒子1の状態空間: $V_1$。軌道角運動量量子数 $l_1$、磁気量子数 $m_1$ を用いて、その状態はケットベクトル $\left| l_1, m_1 \right>$ で表される。
- 粒子2の状態空間: $V_2$。同様に、状態は $\left| l_2, m_2 \right>$ で表される。
複合系全体の状態空間は、これらのテンソル積空間 $V_1 \otimes V_2$ で与えられます。複合系の基底は、それぞれの基底のテンソル積で構成されます。 $$ \left| l_1, m_1 \right> \otimes \left| l_2, m_2 \right> \quad (\text{しばしば} \left| l_1, m_1; l_2, m_2 \right> \text{と略記される}) $$ 例えば、粒子1が状態 $\left| l_1, m_1 \right>$ にあり、粒子2が状態 $\left| l_2, m_2 \right>$ にあるという、単純な積で書ける状態がこれにあたります。
全角運動量とクレプシュ-ゴルダン係数
一方で、複合系全体を一つの系と見なしたとき、その全角運動量 $\vec{J} = \vec{L}_1 + \vec{L}_2$ という物理量を考えることができます。この全角運動量の固有状態を $\left| J, M \right>$ と書きます。
量子力学の要請から、この全角運動量の固有状態 $\left| J, M \right>$ もまた、同じテンソル積空間 $V_1 \otimes V_2$ の元でなければなりません。したがって、$\left| J, M \right>$ は、元の基底 $\left| l_1, m_1 \right> \otimes \left| l_2, m_2 \right>$ の線形結合で展開できるはずです。 $$ \left| J, M \right> = \sum_{m_1+m_2=M} C(J,M; l_1,m_1, l_2,m_2) (\left| l_1, m_1 \right> \otimes \left| l_2, m_2 \right>) $$ この変換を行う際の展開係数 $C(J,M; l_1,m_1, l_2,m_2)$ は、クレプシュ-ゴルダン係数(Clebsch-Gordan coefficients) と呼ばれ、物理学で極めて重要な役割を果たします。
これは、同じベクトル空間に対して、異なる2つの見方(基底)をしていることに他なりません。
- 個別基底: 個々の粒子の状態が確定している基底 $\left| l_1, m_1 \right> \otimes \left| l_2, m_2 \right>$
- 合成基底: 系全体の角運動量が確定している基底 $\left| J, M \right>$
テンソル積という数学的な枠組みがあるからこそ、これら2つの物理的描像を自由に行き来し、複合系の性質を深く理解することができるのです。
6. 結論と物理的考察
本記事では、テンソル積の直感的な導入から、その厳密な数学的定義、そして物理学における応用までを概観しました。
$$ \text{テンソル積} \iff \text{独立した系の「状態の組み合わせ」が張る、新しい線形空間を構築する操作} $$
この結果が持つ物理的な意味は、「複合系の可能性は、個々の系の可能性の単純な和ではなく、積によって爆発的に増大する」ということです。そして、その複合系には、個々の状態の単純な積では表現できない「エンタングルした状態」という、豊かで新しい物理現象が現れる土壌が生まれます。
テンソル積は、単なる計算テクニックではありません。それは、独立した世界を組み合わせてより高次の複雑な世界を記述するための、強力で美しい「言語」なのです。
補足:直積空間とテンソル積空間 — 古典系と量子系の違い
テンソル積としばしば混同される概念に直積空間(Cartesian Product Space) があります。この二つは、独立した系を組み合わせるという点で似ていますが、その構造と物理的な意味合いは全く異なります。その本質的な違いは、「重ね合わせ」を許すか否か にあり、これは古典的な世界観と量子的な世界観の違いに直結します。
直積空間が有効な場合:古典力学の「位相空間」
直積空間は、各要素が独立した「値」や「パラメータ」であり、それらの組 によって系の状態が一意に確定する ような状況で用いられます。
最も代表的で有用な例が、古典力学における位相空間(Phase Space) です。
1次元空間を運動する単一の粒子を考えてみましょう。この粒子の状態を完全に記述するためには、何が必要でしょうか?それは「位置 $x$」と「運動量 $p$」の2つの情報です。
- 位置の空間 $X$: 粒子が取りうる全ての位置の集合。これは実数直線 $\mathbb{R}$ と考えられます。
- 運動量の空間 $P$: 粒子が取りうる全ての運動量の集合。これも実数直線 $\mathbb{R}$ です。
このとき、粒子の状態は、特定の一点 $(x, p)$ で完全に決まります。この $(x,p)$ のペア全体の集合が位相空間であり、これはまさに位置の空間と運動量の空間の直積空間 $X \times P = \mathbb{R} \times \mathbb{R} = \mathbb{R}^2$ に他なりません。
ここでの決定的なポイントは、粒子がある状態 $(x_1, p_1)$ と、別の状態 $(x_2, p_2)$ にあるとき、これらの 「重ね合わせ」を考えることに物理的な意味がない ことです。粒子は、位相空間上のある一点に確定的に 存在します。このように、複数のパラメータの組を単純に並べて状態を記述するのが直積空間です。
テンソル積空間が有効な場合:量子力学の「複合系」
一方で、テンソル積空間は、個々の系が状態ベクトル で記述され、それらの 「重ね合わせ」が物理的に重要な意味を持つ 状況で用いられます。これが量子力学の世界です。
2つのスピンを持つ粒子(例えば電子)AとBからなる複合系を考えます。
- 粒子Aの状態空間 $V_A$: スピンが上向きか下向きかの重ね合わせ状態を記述する2次元のベクトル空間 $\mathbb{C}^2$ です。基底は ${|\uparrow\rangle_A, |\downarrow\rangle_A}$。
- 粒子Bの状態空間 $V_B$: 同様に2次元のベクトル空間 $\mathbb{C}^2$ です。基底は ${|\uparrow\rangle_B, |\downarrow\rangle_B}$。
この複合系の状態空間は、テンソル積空間 $V_A \otimes V_B$ となります。この空間では、以下のような状態がすべて許容されます。
単純な積で書ける状態: $$ |\uparrow\rangle_A \otimes |\downarrow\rangle_B $$ これは「粒子Aのスピンは上向き」かつ「粒子Bのスピンは下向き」という、古典的な直積の概念に近い状態です。
重ね合わせ状態(エンタングル状態): $$ \frac{1}{\sqrt{2}} (|\uparrow\rangle_A \otimes |\downarrow\rangle_B + |\downarrow\rangle_A \otimes |\uparrow\rangle_B) $$ これは、単純な積の形では決して書けません。「Aが上でBが下」という状態と「Aが下でBが上」という状態が、同時に重なり合って存在している状態です。このような状態はエンタングルメント(量子もつれ)と呼ばれ、量子計算や量子通信の根幹をなす現象です。
このように、量子的な重ね合わせを記述するためには、単なるペアの集まりである直積空間では不十分であり、ベクトルの線形結合を許すテンソル積空間が不可欠となるのです。
| 特徴 | 直積空間 (例: 位相空間) | テンソル積空間 (例: 量子複合系) |
|---|---|---|
| 表現するもの | 独立したパラメータの組 | 独立した状態ベクトルの組み合わせ |
| 状態の確定性 | 一点の座標 $(x, p)$ で一意に決まる | 状態ベクトルの重ね合わせとして存在する |
| 重ね合わせ | 物理的に意味がない | 可能であり、物理的に重要(エンタングルメント) |
| 有効な場面 | 古典系(位置と運動量など) | 量子系(複数粒子の状態合成など) |
| 空間の次元 | $\dim(V \times W) = \dim(V) + \dim(W)$ | $\dim(V \otimes W) = \dim(V) \times \dim(W)$ |
7. 発展と関連テーマ
今回のテーマについて、さらに学びを深めるためのトピックをいくつか紹介します。
- クレプシュ-ゴルダン係数の対称性: 角運動量の合成において現れる係数の、物理的に興味深い性質。
- ウィグナー=エッカートの定理: テンソル演算子の行列要素に関する、極めて強力な定理。対称性の議論に不可欠です。
- リー代数と表現論: 角運動量演算子が満たす交換関係は、リー代数と呼ばれる数学的構造の一例です。その表現論は、素粒子物理学の分類などに応用されます。
- テンソルネットワーク: 多体問題や物性物理学、量子情報理論において、多数のテンソル積で構成される状態を効率的に計算・表現するための手法。